伝わる・揺さぶる!文章を書く (PHP新書)

伝わる・揺さぶる!文章を書く (PHP新書)

伝わる・揺さぶる!文章を書く (PHP新書)


武◯野日記を書いている某研究者がベタ褒めしたので、どんなものかと気になって購入した。購入したとき、科学技術分野における文章作法としては"理科系の作文技術"を読めば基本的にはそれで十分だと思っていた。それは読了後の今もかわらない。だからといって、この本を読んだ甲斐が全くなかったかというとそんなことはない。

この本ではメールの出し方、大学受験や就職活動の小論文・自己推薦文の書き方、謝罪の仕方を例に, 適切にコミュニケーションするにはどう考えればよいか、という問題に対してひとつ指針を提示している。作文技術というよりは、相手に自分の話を聞いて分かってもらうにはどうしたらよいか(誘導する)、そのためにはどのように考えればよいか(相手の思考をトレースする・自分の意図を明確にする)、という点に重きをおいている。その点において、耳を傾ける価値があった(相手の意図を考えないでとんちんかんなやり取りをしがちな学生は読んだ方がいい)。ただし、文章自体は全然かっちりしてない。加えて、余計な気遣いともとれる指針がある。


理科系の作文技術 (中公新書 (624))

理科系の作文技術 (中公新書 (624))

"理科系の作文技術"では、情報を選別した上で、1. 事実と意見を区別し 2. それらを簡潔な文章にまとめ 3. 適切な順番で配置し 4. 一意に読める理科系の文書を作成する方法を述べている。"理科系の作文技術"に書いてある事を基礎に、数学や工学の専門書、論文を読み、かつ自分で文章を書いてみることによって理科系の文章作法は自然と身に付く。文章を書くための情報整理という作業を通して、しいては理系の論理的な考察力も養われる(進捗報告書や論文は練習材料)。余計な装飾をとっぱらった、一意に読める文章は物事の本質を表すには適切な表現である。

ところが、普段の生活での会話、メール、後輩先輩とのやり取りを上記の文章と同様のスタンスで行うと、しばしば人間関係に過度の摩擦が生じることがある。理系社会において、ものをはっきり言うのはあたり前の文化だと思っていたが最近はそうでもないらしい。言い方が悪い,という表現を耳にする。意味するところの程度にも依るが、はっきりいってアホの戯言だと思っている。問題の焦点をぼかしまくって済むような生き方をするならば、それはそれでよろしい。けれども、それを僕に要求しないで欲しい、と思っている。生きる場所や方法によって、求められる条件は変わるし、そもそもあわない人間が無理に人生を共有する必要はない。

とは言うものの、世の中、色々な人間がいる。シチュエーションが許さないという場合もある。僕の主義主張はともあれ、ひとつやり方を知っておく必要がある。"柔らかい表現で思考を誘導し、問題そのものに注意を向けさせるにはどうしたらよいか"という問題を解くための参考に、この本はなると思う。まあ、僕の場合は直接ものを言うことに加えて、遠回しな皮肉が強すぎて嫌みに聞こえるらしい。個人的な意見としては、嫌みを言われる程おかしなことをしている、という自覚が言われた側にないのが問題だと思うのだけれど・・・。

全く知らなかったのだけれど、著者は何か有名人らしい(何?。ほぼ日刊イトイで"大人の小論文教室"を連載している。ベネッセで小論文の添削とかしていたってかいてあるけど、赤ペン先生? ズーニーというのはカシミール語で月という意味の様子。ハーフか何かかと思ったら、ただのペンネーム。